冷蔵庫の閑散具合に寂寥がぼくを襲い、そのあまりの疼痛にぼくは生協へ向かうことに決めた。
外に出れば残暑厳しい季節と、かしこで言う程に過ごしにくいことはなく、それどころか、ぼくにもそらとってもよい気候だった。
懸念は何もなく、黒ずんだ雲が西の空に浮かんでいたのが気にかかる程度だった。
ベビーカーを押すぼくには、生協へ行くのに歩いて行くほか手段がなかった。片道20分程度だろうか。
穏やかな住宅街の道は散歩に来たかのようで、快適。時折ぼくがそらに話しかける独り言じみた喋り声の他に特に耳に聞こえるものはない。
その穏やかな道は、道の突き当たりにあった信号で途絶えていた。
押しボタン式の歩行者用信号が赤から青に変わった。ぼくは慌て、走り出した。
数歩進んだところでベビーカーが段差に引っかかり、乗っていたそらが投げ出されそうになった。
ぼくは力一杯ベビーカーのハンドルを引っ張り、二人ともどうにか踏みとどまった。
そらを心配し、顔をのぞけば「何かあった?」とでも言いたげにぼくをまっすぐ見た。
ひとまず安堵し、ぼくもそらに習い内面の動揺を押し隠し、落ち着いて生協へと入っていった。
店の二つある入り口のうち片方にはスロープがついている。
普通ベビーカーで入るのならそちらを選ぶのだろうけど、ぼくはより近い方の入り口から入った。
そのせいで、野菜売り場、魚売り場、肉売り場、冷凍食品売り場となる筈の順路を逆に進んでいた。
牛乳、缶詰、卵。重いものから順にかごに入っていく。
なるほど、スーパーの配置は軽いものからかごに入れられるようにできてるのか。
感心はしても、荷物は軽くならない。順路が逆なせいで、人の流れに逆らうし、その上にベビーカーで機動性に欠ける。
レジを通る頃には疲労感がつきまとっていた。
買ったものを、持って来たマイバックに詰める。
生協では環境に配慮し、ビニール袋は無料で貰えるものではなく、金を払わなくてはならない。
だからぼくは5円払う代わりにマイバックを持って来た。
重いものを下に入れ、一番上に卵を置いた。
そして、それをベビーカーに取り付けたフックに引っかけ店を出た。
ところが、フックがハンドルに付いているものだから、ぼくが歩くのに足を出す度に鞄を蹴ることになる。
これでは、買ったばかりの卵もトマトも潰れてしまう。
ぼくは鞄を肩にかけることにした。
そして新しい問題がぼくを悩ませた。
肩にかけるのに鞄を持ち上げたときに、鞄の中の物がずれた。
ぼくが少し中をのぞくと、牛乳パックの先端がトマトに迫り、豆腐が卵にのしかかろうとしていた。
歩きながら、そして時々立ち止まりながら、ぼくは中の物を動かした。
でも、トマトをかばえば卵、卵をかばえばトマト、どちらかが下になってしまう。
ぼくが救うべきはどちらなんだろう。
仕事か家庭か、サラリーマンはどちらを取るのかと妻に詰め寄られる。
環境か利便か、化石燃料を使い続けてきた人類は苦悩する。
そして、ぼくはマイバックを持って生協から帰る。

今日のお買い物でできた料理。
買って来たもので使ったのはエノキだけ何だけどね。